Writer/文筆家

【連載】『わたしが推した神』短いあとがき

 単行本第1作『ベートーヴェン捏造 名プロデューサーは嘘をつく』を書いている最中に、こんな疑問が浮かびました。
 結局のところ秘書シンドラーのベートーヴェンへの感情の正体は何だったのだろう、と。

 それを恋愛感情だったと言う気はありません。
 ただ、純然たるファン心だったと断じる気もありません。
 現代的なジェンダーやセクシュアリティの概念がまだ存在しなかった時代に生まれ育った彼には、自分の心を検証する余地さえなかったと思います。そもそも当時はまだ、今日的な意味の「ファン」ということばさえも確立していませんでした。本人自身、何が何だかよくわからないまま、名もなき感情の奔流にとらわれて生きていたのではないかと想像します。
 
 でも、たとえば彼があと100年くらい未来に生まれていたら、いったいどうなっただろう?
 その疑問が、本作の主人公として彼女を選んだ動機の(5つくらいあるうちの)ひとつです。
 

 かような拙い試みを最後まで追ってくださった皆様に心から感謝申し上げます。
 まだ何の目処も立っておりませんが、いつか、別の形で当作の新バージョンを公開できればと願っております。

                            2021年師走 かげはら史帆